上司の視点はそこにもあった
学生だった時、私は都内の特許事務所でアルバイトをしていました。
特許事務所とは、お客さん(主に会社)のかわりに特許(発明)とか、
意匠(デザイン)、商標(トレードマーク)、実用新案(アイデア)を申請するところです。
私は書類の整理なんかをしていて、端から仕事の内容を興味深く見ていました。
職場にはひとりの部長さんがいて、この方がまた面白い人だったんですよ。
今でもよく覚えている出来事があります。
ある日、女性社員がきちんとした連絡もなく欠勤しました。
次の日も、そして次の日も…。
あれ?と周りの人たちは思います。
その方がいないと進まない仕事も、当然たまっていきます。
事件の可能性はないようですが、周囲の雰囲気を代弁するとこんな感じ。
「あの人、どうしたのかしら?」
私は整理した書類を部長に手渡すときに声をかけました。
「〇〇さん、どうしたんでしょうか。心配ですね」
その時、部長がぽつりとつぶやいたひとことがこれ。
「うん。でも案外、いいことがあったのかもしれないよ」
イライラした返事かと思いきや、意外な答えが返ってきました。
当時の私はこの反応にびっくりしたことを覚えています。
社会人としてどうなんだ!とか、みんなが心配するじゃないか!
という観点は当然あると思いますが、
その部長さんのユニークなところは、上司と部下を超えた視点も持っていたところ。
二人の間には何か独特の信頼関係があって、
役割以外に「友人である」という視点があったのかもしれません。
数日後、その方は会社に出社してきました。(実際、何があったのか私にはわかりませんでした)
組織の役割という視点だけで相手を見るか、あるいはひとりの個人や友人として相手を見るかで、
接する態度、影響も違ってくるのではないかと今の私には思えてきます。