『サピエンス全史』がくれた問い④

さて、著者によると私たちの種は、歴史上のほとんどを狩猟採集をして暮らしていて、過去1万年の農耕生活よりも、もっとはるかに長い時間を狩猟採集民として生きてきたといいます。

ですから、ヒトの心理を理解するには、その当時のことを知る必要もあるだろうというのが、著者の論理です。そこには家族の絆や、社会生活や、独特の精神文化があったわけですね。ところが、文字がなく、資料も少ないためにわからないことがあまりにも多いわけです。壁画や土器なんかはちょっと残っていますが…。

おそらく狩猟採集時代にも、語られていた物語があったのでしょう。今なお狩猟採集生活を続けている少数民族を研究する人がいるのは、彼らの今の生活そのものというよりも、狩猟採集時代にサピエンスがどうやって暮らしていたのか、手がかりを少しでもつかもうとする試みでもあるのですね。

ここで私が思うことは、祖先は今とはだいぶ違う脳の使い方をしてきたのではないかということ。

当時のヒトは、今よりもはるかに自然に適応するための知恵を持っていたようです。天候や季節に関する情報、獲物の取り方、食べられる実とそうでない実の見分け方、薬草の使い方。

現代の私たちが持つ、断片的で、特化された知識とは違い、生き延びるための知恵を広く蓄え、歴史上最も優れた知識と技術を持っていたという説もあります。生きるための智慧というものでしょうか。

文字情報がない分、感覚が鋭くて、匂いや、音に敏感で、視力も良かったんじゃないかと思います。

そう考えると、スマホやPCを使い、乗り物に乗って移動する生活をし始めたこの50年くらいに、サピエンスの脳は劇的な変化に適応したことになります。現在の生活の中で、特に脳は常に考えフル回転し(SNS疲れとかも含めて!)それにともなうストレスを感じていますよね。

と同時に、退化して、すっかり衰えた部分があるのではないかとも思います。

狩猟採集の時代に能力としては獲得したのに、使わなくなったものの中には、まだDNAが覚えている知識や知恵があるかもしれません。

より安定して食糧を確保し、多くの人を養うことができる農耕が始まるのは、それからずっと後になります。長い人類の旅の中で、サピエンスは進化してきましたが、これから先、進化のスピードが遅くなることはありませんでした。(つづく)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください