『サピエンス全史』がくれた問い⑤
さて、サピエンスはとうとう全生物の覇者となりました。地球上のあらゆる場所に広がり、繁栄し、仲間を増やすことに成功したのです。
こうなると、人口を養うだけの食糧の確保が必要となります。そこで次に始まったのが農耕でした。この本でいうところの農業革命です。
農業は狩猟採集よりも多くの食糧を手に入れ、定住を可能にしてくれます。そこでサピエンスは農耕に都合がよい品種の小麦やトウモロコシを育て始めます。
ここで面白い話が出てくるのですが、サピエンス以外でもっとも成功した種は何かという問いです。そこで著者は、小麦と牛だと言います。それは人工的に保護され育てられ、サピエンスととともに地上にひろがったからだそうです。
確かに人が絶滅に追いやってしまった種のことを考えると、皮肉にも人によって管理された種は絶える心配がなく、ヒトの欲求を利用しながら繁栄できたと言えるのかもしれません。
ただ、この話を読むにつけ、私などは「サピエンスは地球上のバランスを壊す、最悪の害獣では?」と思えてしまいます。
さて、
・長期的な視点に立った時に、農業革命がもたらしたものは何だったのか?
という視点に切り替えて、話をすすめましょう。
農業革命は生産性をあげて、増える人口に対処できるようになりました。しかし、著者は、こうした点もあげています。
・労働時間が、狩猟採集の時代よりも長くなったこと
・農産物を管理する国家、社会、組織が大きくなったこと
・それにより、人々の間に貧富の差が生まれたこと
また、サピエンスにとって都合の良い作物が幅をきかせるいびつな生態系につながったこともあげられるでしょう。
実はこれは今もなお続いている話で、バイオテクノロジーの発展に伴い、特定の農薬に耐性を持つ品種や、タネを持たない実をつける特殊な作物が人工的につくられることになりました。
地球の生態系におかまいなく、サピエンス中心の、サピエンス独り勝ちの時代が、ここからどんどん加速していきます。
ちなみに農業革命はヒトを幸せにしたかについて、著者の答えは決して肯定的ではないのです。
格差、食糧問題、人口増加の課題を抱えながら、サピエンスはこれからも歩み続けることになります。(つづく)